羽生結弦選手や宇野昌磨選手らに刺激を受けながら、学業に励む10代。
作:ジャック・ギャラガー
翻訳:篠原泰良
6歳からスケートを始めた篠原泰良(しのはらたいら)選手は、2月にオランダで開催されたチャレンジカップのジュニア男子で3位に入賞し、初の国際大会出場を果たした。
過去に活躍したアメリカのスター選手らの刺激を受けてスケートを初めた篠原選手は現在ジュニア。これからの数年間、自分自身のために輝かしい道を歩むことを決意した。
イリノイ州シャンバーグ市出身の16歳は、Ice Timeの独占インタビューで、自身のキャリア、スケートの目標、そして米国で日本人として育ったことについて語った。
篠原選手の両親はともにアメリカの大学を卒業し、長年アメリカに住んでいる。父親は北海道北見市出身、母親は福岡県出身という対照的な出身地を持つ。
2月にオランダで開催されたチャレンジカップでは、ジュニア男子で日本代表の中村俊輔選手、日系イタリア人のロッシ・直樹選手に次ぐ3位に入賞し、初の国際大会出場を果たした。1月の全米ジュニア選手権で7位に入賞した篠原選手にとって期待に応えた結果だった。
篠原選手は6歳のとき、友人に誘われてスケートを始め、その後すぐにレッスンを受け始めた。しかし、本格的にスケートに取り組むきっかけとなったのは、それから数年後のある出来事だった。
「平昌オリンピックで、羽生結弦選手のスケートを見たことを覚えています」と篠原選手はIce Timeに語った。「彼のフリープログラム(Seimei)がきっかけで、もっとスケートをしたい、スケートに関わりたい、と思うようになりました。当時はサッカーをやっていたので、フィギュアスケートはどちらかというと習い事的なものだったんです。」
篠原選手は、羽生選手がスケート界に与えた影響を物語るように、伝説的なオリンピック2連覇の羽生選手を絶賛していました。
「彼は完璧なパッケージを持っている。ジャンプもスピンも芸術性もある」と篠原選手。「ジャンプ、スピン、芸術性、すべてを兼ね備えたスケーターは数少ない。ジャンプしかできない人もいる。」
また、「羽生選手は、全てを極めた選手だとも思う」と続ける。「プログラムの完成度も高いし、ジャンプも流れるように跳べる。ステップも力強く、それでいて正確にステップを踏む。それが彼の好きなところです」と続けました。
宇野昌磨選手
日本人スケーターへの親近感
篠原選手は、日本のスケーターへ憧れを口にした。
「日本の選手はとても優秀です。特にトップスケーターたちはジャンプがとても安定している」と篠原選手。「日本のスケーターはとても努力家で、競争率が高い。頑張っている人たちだけが、大舞台に立てるんです。」
また、世界チャンピオンの宇野昌磨選手とオリンピック銀メダリストの鍵山優真選手について、印象に残ったことを挙げた。
宇野選手については、「本当にうまいと思います。生で見たことはないんですけど、テレビで見る限り、すごく速くて、すごく力強い。ジャンプもすごく大きく感じます。」
「以前はジャンプの成功率が不安定でしたが、ここ数年は安定してきたと思います。今年のプログラムは見ていてとても楽しかったです。本当に好きな選手です。」
鍵山選手は篠原選手より2歳年上の18歳で、篠原選手は鍵山選手も尊敬している。
「彼はとてもいい選手です。ジャンプがすごく安定してい軽々ジャンプを飛ぶように見えます。このような安定したジャンプをすることで、本当に大きい舞台に到達できるのだな、と感心しました。ここ2、3年は4回転も飛ぶようになりましたし、すごいと思っています。」
「僕は、ジャンプの安定感があまりないので、どの試合でも安定した滑りをする彼を尊敬しています。」と篠原選手は話していました。
坂本花織選手
坂本選手のオリンピックでの活躍に感動
篠原選手は、昨シーズン世界を制したの坂本花織選手の活躍にも心を動かされたという。
「オリンピックで3位になったんですよ。4回転ジャンプを必要とせずとも、メダルが取れるんだ、と感動しました」と篠原は語る。「4回転ジャンプはとてもかっこいいと思います。スケートの限界に挑戦しているような感じです。でも、ジャンプ以外にも、振り付けやスケーティングのスピード、スピン、芸術性など、ジャンプ以外で限界に挑戦できるのがかっこいいと思いました。」とコメントしています。
8月にジュニアグランプリシリーズを見据えた篠原選手は、今季の目標についてこう語った。
「今シーズンはジュニアグランプリに出場し、良い結果をだし、JGPファイナルに出場したいです」と篠原選手は語っています。「でも、目標はシーズン後半に置いています。」
「JGPは大切な経験と思っていますし、国際大会に出るのは楽しいです。他国出身のスケーターも見ることができるので、ぜひ出場したいです。ですが、シーズン終盤にもっと集中して、全米ジュニアで優勝し、ジュニア世界選手権の出場権を獲得したいです。自分がどれくらい世界に通じるのかが知りたいです。」
篠原泰良選手
2022-23シーズンのプログラムについて
シカゴ・フィギュアスケート・クラブに所属し、ジェレミー・アレンコーチとデニース・マイヤーズコーチの下で練習している篠原選手は、Ice Timeとのインタビューで、今シーズンのプログラムについて教えてくれました。
「今シーズンのフリースケートは『ゲーム・オブ・スローンズ』で、ブノワ・リショー氏の振り付けです」と篠原選手。「ショートプログラムは坂本龍一さんの『アモーレ』で、振付師はロヒーン・ワード氏です。」
今年3月にボストンのアイスリンクでリショー氏の振付けを受け、すでに数々の素晴らしい業績を残しているリショー氏と共に今シーズンのトレーニングができることを期待している。
「リショーさんとは初めての年なので、まずは彼のスタイルを学びたいと思います。僕はまだまだ未熟なので、いろいろな振り付けにも挑戦してみたいとも思っています。」と語った。
トリプルアクセルへの挑戦
篠原選手の一番好きなジャンプは、トリプルフリップ。トリプルアクセルは半回転多いため、現在一番難しいジャンプだと言います。
「他の三回転はうまくなってきたと自分で思います。ハーネスを使った練習では、コーチと一緒に4回転を練習しています。また、最近ではハーネスなしで、一人でもやるようになりました。」
Ice Timeは、篠原選手が将来的にもっとレベルが高いコーチへの移籍を考えているのか、と尋ねた。
「移籍について家族と話したこともありますが、ジェレミーコーチとデニースコーチというすでにハイレベルなコーチが僕にはついています」と、篠原選手。「彼らはブレイディ(テネル)選手をオリンピック選手にまで成長させた、非常に優れたコーチです。また、他のコーチ達や振付師、米国フィギュアスケート連盟とも良い関係を築いてくれています。」
「現在のコーチ達には十分満足していますし、他の場所に移ることはないと思います。移籍したからといって、いきなりうまくなれるわけではありませんしね。」
シカゴ・フィギュアスケート・クラブで練習する篠原泰良選手
教育への意欲
現在、ソフォモア(米高校2年生)の篠原選手に、将来の進学先について質問してみた。
「MIT(マサチューセッツ工科大学)に行きたいという夢はずっとあります」と篠原選手。「でも、きっと大変だろうし、自分に行ける学力があるかどうかさえ全くもってわからないです。」
そう謙遜する篠原選手は、すでにどの分野に進むか思案している。
「父と大学での専攻の話をしていたんです。おそらく、数学科かエンジニア科に進むと思います。理系ですし、工作などが好きだからです。」
MITへの進学は、米国史上最高のスケーター2人が歩んできた名門校の道を歩むことになる。オリンピックに2度出場したディック・バトン氏はハーバード大学とハーバード・ロー・スクールの両方を卒業し、今季オリンピック金メダリストのネイサン・チェン氏はイェール大学に通っている。
篠原選手は、ネイサン・チェンについての感想も述べた。
北京五輪について、「彼は本当に素晴らしかったです。その成功に相応しいスケーターだと思います」と篠原選手は言った。
「特に平昌では、思うような滑りができなかった。その後4年間、彼はたくさん練習し、何回も世界チャンピオンになりました。ほとんどの大会で優勝していました。」
「彼はどの試合でもプロ意識を持って滑っている。あの大きなプレッシャーの中で、完成度の高いプログラムを滑ることができるのは、すごいことだと思います。」
篠原選手は、コンピューターや電子機器に強い関心を持っている。
趣味と興味
Ice Timeは、篠原選手のスキルはリンクの上だけでなく、もっと広い範囲に及ぶことに気づいた。
趣味について聞くと、「プログラミングが好きなんです。Appleのアプリ開発をしばらくしていました」と答えた。「趣味でコーディングをしています。あと、3Dのものを作るのも好きです。今も、3Dプリンターで印刷しているものがありまして、これは友達の誕生日プレゼント用に作ったものです。他にも、オブジェやキャラクター、キーホルダーなども作っています。」
「電子工作も好きです。実用的なものを作るのがとても好きなんです。」
アプリの話が気になったので、Ice Timeはもっと知りたいと思った。
「僕が作っているアプリは、ボタンやスライダーで入れた出来栄え点と演技構成点をもとに、スケートのプログラムの点数を計算するものです。結果表を保存しておいて、後で見ることもできるようなアプリにしたいと思っています」と篠原選手は語る。
さらに、篠原選手はこんな発明をしたことも教えてくれた。
「『オートカメラマン』は、時間に合わせて作動するカメラスタンドです。」
「正しくプログラムすれば、スケートのプログラムを滑っているときにカメラが自分を撮影してくれます。スケーターの動きは毎回同じなので、これが可能でした。将来的にはセンサーを使って、どこに動いてもカメラが追ってくるようにしたいですね。」
日本語教育の重要性
篠原選手は、アメリカで生まれ、その後ずっとアメリカで生活しているにもかかわらず、日本語を第一言語としている。これは、海外で育った多くの日本人がそうであるように、土曜日は日本語補習校に通い、家庭では日本語を話していたことのおかげである。
「日本語は母国語、英語は第2言語です。僕の家では、僕が小さい頃からずっと日本語で話しています。アメリカに住んでいても、家の中では日本語で話すことの方が多いです。そのおかげで、日本語を流暢に話せるようになったのだと思います。」
篠原選手は、「日本語補習校で言語能力を磨き、文化を理解することができた」と言っている。
「土曜日は日本語補修校に小学校1年生から通っています。」と篠原選手は言う。「そのおかげで、日本語も上達したと思います。ただ話すことと、教育を受けることは少し違います。教育を受けることによって、日本の歴史の背景を知り、日本の社会がどうなっているのかを知る。国語も勉強できますしね。」
また、数年前は、シカゴの日本総領事館で行われた継承日本語弁論大会で、2位に入賞し、その日本語力を発揮した経験がある。
コロナ以前は、2年に1回は日本に来ていたという。
「パンデミック以前は、1年おきに家族で来ていました」と篠原は述べた。「最後に行ったのは2018年です。」
Ice Timeは篠原選手に、隣の町イリノイ州ホフマンエステーツで育った2019年世界ジュニアチャンピオンの樋渡知樹選手について尋ねた。
「私がスケートを初めたばかりの頃、リンクでアイスショーがあり、樋渡選手がゲストスケーターとして招待されました 」と篠原は振り返った。「本当にうまかったのを覚えています。スケートはこんなに楽しくて、こんなに高度でたくさんの人を感動させることができるんだと、とても驚かされました。」
大谷翔平選手
大谷選手への憧れ
Ice Timeは、篠原選手がスケート選手以外で尊敬している日本人選手について質問しました。
「大谷翔平選手を尊敬しています」と篠原選手。「僕の日本語補習校の校長先生も彼のことが大好きなんです。ピッチャーもバッターもできるので、『二刀流』って呼んでいるんです。」
「日本語と英語の両方を話す私たちも『二刀流』だと先生は言っています。」
「僕は勉強もスポーツも頑張っています。だから、それも二刀流になるのかな、と思います。あと、スポーツは全般好きです。時間があれば、いろいろなスポーツをやってみたいです。でも、スケートをやっていると、そういうわけにはいかないんですけどね。」